ヘルメット治療に後遺症はあるのか|治療の概要やしくみを解説
赤ちゃんの頭のかたちを矯正する「ヘルメット治療」。向き癖や分娩方式などのさまざまな理由で発症した頭のゆがみを矯正する方法として、近年注目を集めています。
しかし、ヘルメット治療は自由診療であり、全員が受ける治療ではありません。あまり詳細が知られていないこともあり、ヘルメット治療が成長や発達へ悪影響や後遺症を起こさないか心配なのではないでしょうか。
この記事では、ヘルメット治療の後遺症や、治療のしくみなどを解説します。治療の必要性や流れも合わせて見ていきましょう。
後遺症について早く知りたい人は、ヘルメット治療の後遺症からご覧ください。
ヘルメット治療とは
ヘルメット治療は、赤ちゃんに治療用ヘルメットをかぶせ、頭のゆがみを治療する方法です。治療に使うヘルメットは、厚生労働省から医療機器として認められたものを使用します。[1]
もともとはアメリカで発展した方法で、今までに世界28ヶ国、60万人以上の赤ちゃんが治療を受けています。
また、ヘルメット治療は健康保険の使えない「自由診療」ですが、「医療費控除」は適用されるため、確定申告すれば所得税や住民税が少し安くなります。
ここからはヘルメット治療について、以下の内容を説明します。
基本的な内容を知っておくことで、お子さんにヘルメット治療が必要なのかをより考えやすくなります。見ていきましょう。
ヘルメット治療のしくみ
ヘルメット治療は、赤ちゃんの頭の平らになっている部分にヘルメットで空間を作り、きれいなかたちになるように助ける治療法です。[1]
ヘルメットは、以下のような方法で「平らになっている部分」「早く成長しすぎている部分」のバランスをととのえます。
・平らになっている部分
→頭が成長する空間を作り、平らになっている部分の成長を助ける
・早く成長しすぎている部分
→ヘルメットでやさしく頭を守り、成長を少し待ってもらう
2015年にアメリカで行われた調査では「ヘルメット治療を受けた赤ちゃんのうち約95%が、目標とする頭のかたちに矯正できた」という報告があります。[2]
ヘルメット治療は効果の高い治療方法といえるでしょう。
ヘルメット治療の対象者・時期
ヘルメット治療の対象になる赤ちゃんの条件を下に紹介します。[1]
・生後2~6ヶ月(基準となる月齢)
・中等度以上の「変形性斜頭症」「変形性短頭症」「変形性長頭症」
そのほかに、赤ちゃんの頭の骨が通常よりも早く閉じてしまう病気「頭蓋縫合早期癒合症」の手術後に使われることもあります。[1][3]
治療時期は医療機関によって異なり、治療開始時期を「生後3ヶ月頃から」としている医療機関もあります。詳しくは医療機関に確認しましょう。
また、赤ちゃんの頭はとくに生後6ヶ月までに大きく成長するため、治療時期が遅れると改善効果が下がります。しかし、治療時期の遅れにより完全な矯正ができなくても、ゆがみが軽くなる赤ちゃんもいます。[4]
赤ちゃんの成長は個人差があるため、気になる場合はあきらめずに相談することが大切です。
ヘルメット治療の流れ
ヘルメット治療は、以下の流れで行われます。
1. 小児脳神経外科医が診察を行い、頭のかたちに関する危険な病気が隠れていないかを確かめる
2. 3Dスキャンで頭のかたちを撮影する
3. ゆがみの重症度を評価し、ヘルメット治療を行うかをご両親と相談する
4. 1~1.5週間後にヘルメットが完成し、治療を開始する
5. ヘルメットを装着して生活し、1ヶ月おきに定期受診を受ける
6. 3~6ヶ月をめどに治療を終了する
ゆがみの重症度が低かったり、説明を受けてご両親がヘルメット治療を希望しなかったりした場合は、そのまま経過をみることも珍しくありません。
なお、3Dスキャンは特別なカメラを使って撮影するため、大人のCTスキャンのように特別な機械に長時間赤ちゃんが入ることはなく、ご両親が赤ちゃんを抱っこした状態で大丈夫です。(医療機関や使用するヘルメットによって、撮影機器には違いがあります)
また、ヘルメットの装着時間は1日23時間ほど。寝ている間も含め、基本的には1日中かぶることになります。とはいえ最初から23時間かぶるわけではなく、以下のように少しずつ時間をのばしてヘルメットをかぶる生活に慣らしていきます。[1]
・1日目:4時間
・2日目:5時間
・5日目〜2週間:12時間
とくに最初の3~4日間は、ヘルメットによる皮膚トラブルが出ていないかを慎重に観察します。
ヘルメット治療の後遺症
ここからは、ヘルメット治療の後遺症について以下の内容を解説します。
医学的知識をもとに分かりやすく説明するので、ぜひ参考にしてください。
脳や成長に関する影響・後遺症はなし
ヘルメット治療により、赤ちゃんの脳や頭の骨の成長、発達に影響や後遺症が出ることはありません。ヘルメット治療が赤ちゃんの頭の成長を妨げないことも、研究によって明らかにされています。[5]
赤ちゃんの頭は、産まれてからの1年で大きく成長します。ヘルメット治療は、歯の矯正治療のように外部から力をかけるものではなく、赤ちゃんの頭がきれいに成長するための枠組みのようなものです。
もちろん、頭のかたちに合わないヘルメットを使い続ければ、頭の発達に影響が出る可能性もゼロではありません。[1]
そうならないように、ヘルメットは3Dプリンターを使って1人ひとりの頭のかたちに合わせて作られた「完全オーダーメイド品」を使います。
また、赤ちゃんの頭の成長を妨げないよう、ヘルメット使用中は1ヶ月に1度の定期健診を行い、頭の成長やヘルメットのサイズを調整します。医師の指導の下で治療すれば、脳や成長に関する心配はないと考えてよいでしょう。
あせもや湿疹などの肌トラブルはあり
脳や頭の発達に関する後遺症・悪影響はありませんが、ヘルメット治療は肌トラブルを起こす可能性があります。
具体的には、以下のようなトラブルが考えられます。[1]
・皮膚炎(発赤、ただれ)
・皮膚の損傷(水疱、剥がれ、出血等)
赤ちゃんはたくさんの汗をかく上に、治療中は1日のほとんどをヘルメットをかぶって過ごします。そのため、皮膚トラブルが起こりやすいのは事実です。
肌トラブルが起きた場合も「クッションを調節する」「軟膏を塗る」などの対処をすれば、ヘルメット治療は継続できます。
治療を開始してから頭の赤みやぶつぶつ、汗疹(あせも)が出た場合は、ひどくなる前に医師へ相談してみてくださいね。
Q:後遺症はなくてもヘルメット治療自体に意味がないってホント?
頭のゆがみが軽い場合は、寝かせる向きに注意したり、腹ばいで過ごす時間(タミータイム)を増やしたりすることで自然に頭のかたちが治るケースはあります。
たとえばアメリカの研究では、「約77%の子供はヘルメット治療を行わなくても頭のかたちが改善した」という報告があります。[2]
ただし、別の研究では「ゆがみの程度が大きいと自然には治りにくい」「月齢が高くなると自然には治りにくい」ともされています。
3D撮影の結果を見て、医師とヘルメット治療の必要があるかどうかを相談するのがおすすめです。タミータイムについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
Q:赤ちゃんの頭のゆがみを直すヘルメット治療はかわいそうなの?
「ヘルメット治療はかわいそう」とご両親が思う必要はありません。かわいそうだと思いがちな理由と、問題ない理由を下の表にまとめました。
かわいそうと思いがちな理由 | 問題ない理由 |
ヘルメットが邪魔そう | 赤ちゃんは自然に慣れる オーダーメイドなので実は頭の形に合っている かぶれや擦れは軟膏やクッションで対処可能 |
見た目が気になる | かわいいデザインのヘルメットも多い 治療期間は長くて6ヶ月ほど |
親のエゴなのではないか | 将来の体調不良のリスクを減らせる (顔のゆがみ・噛み合わせ・耳の位置など) |
周囲の目が気になる場合は、「頭の変形が大きいため、将来の噛み合わせや顔のゆがみを防ぐために医師の指導のもとでヘルメットをかぶっている」と説明するのもよいでしょう。
診察では、ご両親の心配や不安もお伺いします。ぜひ気軽にご相談ください。
まとめ
ヘルメット治療は、向き癖や出産時の状況による頭のゆがみを高い確率で矯正できます。
ヘルメットは赤ちゃんの頭のかたちに合わせた完全オーダーメイド品のため、頭の骨や脳の成長・発達を妨げることはありません。ただし、皮膚のかぶれや擦れが出るケースはあり、軟膏を塗ったりヘルメットのクッションを調整したりすることで対応します。
「赤ちゃんの頭のかたち外来」は、東大阪市の布施駅近くにある赤ちゃんの頭のゆがみに関する専門外来です。ヘルメット治療ありきではなく、「赤ちゃんの頭に関する相談窓口」というスタンスで、ご家族に寄り添った治療を行います。
最短で翌日から来院可能で、小児脳神経外科医が丁寧な診察を行います。予約やご相談はLINEで受け付けております。ぜひ友だち登録して、気になることを気軽にご相談ください。
参考文献
[1]ベビーバンド|添付文書
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/701708_30400BZX00090000_1_01_01
[2]頭蓋位置変形に対する保存療法とヘルメット療法の有効性
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25415272
[3]頭蓋縫合早期癒合症とは|日本形成外科学会
https://jsprs.or.jp/general/disease/umaretsuki/atama/sokiyugo.html
[4]斜頭症の治療における矯正(ヘルメット)療法|PUBMED
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24079781
[5]変形性斜頭症の治療中に頭蓋骨の成長が制限されない|PUBMED
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10420129