斜頭症のヘルメット以外の治療法|自然に治るかや治療の流れも解説
赤ちゃんの頭の後ろ(後頭部)がななめにゆがんでしまう「斜頭症」。日本では赤ちゃんを仰向けに寝かせることから、斜頭症の赤ちゃんが多いといわれています。斜頭症の治療は「ヘルメット治療」が有名ですが、「ヘルメットをかぶせるのは抵抗がある」「他の治療法でどうにか治らないものか」と考えるのではないでしょうか。
斜頭症が軽度の場合は、ヘルメット以外でも治療できます。効果のある治療法・ない治療法と合わせて見ていきましょう。
この記事の内容
斜頭症の治療とは
斜頭症には、以下2つの原因があります。
原因によって治療法が異なるため、理解しておきましょう。
向き癖による斜頭症の場合
向き癖による斜頭症の治療方法は「ヘルメット治療」「ヘルメット以外の治療法(理学療法)」のどちらかです。
赤ちゃんの頭はやわらかく、無理に力をかけるのは非常に危険なため、外から無理に圧力をかけてはいけません。成長にともなって赤ちゃんの頭が大きくなるのを原動力に頭のゆがみを治療します。
また向き癖による斜頭症は、歯の矯正や美容整形手術などと同じ「自由診療」の扱いです。健康保険の対象にならず、治療するかしないかや治療方法はご両親の判断となります。
斜頭症の治療は、ヘルメット治療・理学療法のどちらも、赤ちゃんの頭が大きく成長する生後1年間が重要です。時期を過ぎて頭の骨が固定化すると治療効果が下がるため、治療を希望するなら生後6ヶ月頃までの受診をおすすめします。
病気による斜頭症の場合
1万人に4〜10人ほどにあらわれる「頭蓋縫合早期癒合症」という病気が原因の斜頭症は、基本的に手術が必要です。[1]
頭蓋縫合早期癒合症とは、本来なら隙間のある赤ちゃんの頭の骨が通常よりも早くくっついてしまい、脳が圧迫されたり頭が変形したりする病気です。脳の圧迫により、脳神経の発達が遅れる可能性もあります。
斜頭症を診察する病院では最初に「頭のゆがみが病気によるものではないか」を慎重に確認しています。
頭蓋縫合早期癒合症について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
斜頭症のヘルメット以外の治療法
ここからは斜頭症を治療するヘルメット以外の治療法について、以下の2つに効果があるかを説明します。
斜頭症は、医学的に効果のある方法での治療が大切です。ぜひ理解しておきましょう。
理学療法は効果あり
斜頭症のゆがみが軽い場合や赤ちゃんの月齢が低い場合は、理学療法でも治療効果が見込めます。
指導する医療機関や赤ちゃんの状態にもよりますが、理学療法では以下のような治療をおこないます。
・赤ちゃんの寝る向きを変える
・抱っこや授乳の向きを左右均等にする
・うつぶせの時間(タミータイム)を増やす
・向き癖と逆方向に興味を引くおもちゃを置く
・赤ちゃんの首や背中の筋肉をほぐすマッサージをする
・ベビーカーやチャイルドシートで長時間体勢が固まらないようにする
効果の高い理学療法を安全に行うなら、自己流ではなく医師への相談が望ましいでしょう。
タミータイムについては、以下の記事で詳しく説明しています。
ドーナツ枕は効果なし
「ドーナツ枕」とは、ドーナツのようなかたちをしたやわらかい枕です。真ん中がへこんでいるため、枕によって赤ちゃんの頭に自然な丸みが出るといわれる商品です。
しかし、「ドーナツ枕」に医学的な有効性や安全性は証明されていません。
また、効果がないだけでなく、眠っている赤ちゃんの顔に枕がかぶさり、窒息につながるリスクもあります。
アメリカのFDA(食品医薬品局)は「窒息を防ぐために、赤ちゃんに頭のかたちを矯正する枕は使用しないでください」と明言しており、日本の厚生労働省や消費者庁も同様の見解です。[2][3][4]
なお、「ドーナツ枕で斜頭症が治った」という口コミは、赤ちゃんの成長にしたがって自然にゆがみが改善した可能性が高いと考えられます。
ドーナツ枕による斜頭症の治療は、有効性・安全性の両面から避けてください。
斜頭症は治療しなくても自然に治るのか
斜頭症は以下2つの理由が重なると、自然に改善するケースもあります。
・赤ちゃんの頭が成長して大きくなった
・成長して寝転がる時間が減り頭に圧力がかかる時間が減った
特に赤ちゃんの月齢が低くて斜頭症が軽度の場合は、自然にゆがみが軽減するケースも珍しくありません。
また、斜頭症が治っていなくても赤ちゃんの髪が伸びることで、頭のかたちが気にならなくなるケースも考えられます。
しかし、「ゆがみが大きい」「月齢が高い」などの場合は、自然治癒は難しいとされています。
頭のゆがみが固定化すると斜頭症の治療は難しくなるため、ゆがみが気になる場合は自然治癒が期待できる程度かを医療機関で調べるのもよいでしょう。
斜頭症を治療しないとどうなるかは、以下の記事でも解説しています。
斜頭症治療の流れ
斜頭症治療の基本的な流れは、以下の通りです。
ただし、医療機関によって治療の流れが異なる部分もあります。正確な情報は、受診前に医療機関のWebサイトを確認するのがおすすめです。
診察して大きな病気が隠れていないか確認する
まずは赤ちゃんを診察して、大きな病気が隠れていないかを確認します。同時に頭のゆがみに関する心配ごとの確認(カウンセリング)や、治療の説明もおこないます。
最初に説明した通り、斜頭症は「向き癖によるもの」「病気(頭蓋縫合早期癒合症)によるもの」の2種類です。
病気が原因の斜頭症だった場合、手術が必要になるケースも珍しくありません。重大な病気の見逃しが起こらないよう、慎重に診察をおこないます。
3Dスキャンで頭のかたちを撮影する
斜頭症の原因が「向き癖」によるものと分かったら、頭のかたちを科学的に判断するために3Dスキャンで赤ちゃんの頭を撮影します。
撮影方法は「抱っこしたまま」「赤ちゃん用のスキャン機械に入る」など、医療機関によってやや違いがあります。
検査結果の説明を受けて治療するかを決める
撮影した3D画像をもとに斜頭症のレベルを「正常」「軽症」「中等度」「重症」「最重症」の5段階で医師が評価し、ご両親に説明します。ご両親は説明を聞いてから、「治療をするかしないか」「どのような治療をするか(理学療法またはヘルメット治療)」を判断します。
先ほど触れたように、向き癖による斜頭症の治療は「見かけをととのえる医療」となるため、健康保険の効かない自由診療です。治療をするかしないかはご両親の判断になるため、受診した結果「治療をしない」と決めることも可能です。
中には「赤ちゃんの頭のゆがみがどの程度か知っておきたい」と、3Dスキャンだけを目的に受診するご両親も珍しくありません。
治療をおこなう
ご両親が希望した治療をおこないます。
ヘルメット治療の場合は、1〜2週間でオーダーメイドのヘルメットが完成し、治療を開始します。
治療開始後は、赤ちゃんの頭の成長具合やかたちを確認する定期受診が必要です。医療機関や選んだ治療方法によって異なりますが、ヘルメット治療の場合は1ヶ月に1回ほどの受診が目安となるでしょう。
Q:斜頭症はヘルメット治療とそれ以外の方法で治療効果に違いはありますか?
ヘルメット治療と保存療法(理学療法を含む体の向きを変える治療)の効果を比べたアメリカの論文では、以下のようにヘルメット治療の方が頭のかたちの改善率が高かったという報告があります。[5]
・保存療法:77.1%
・ヘルメット治療:94.4%
理学療法で改善しなかった赤ちゃんのうち96.1%は、その後ヘルメット治療によりゆがみが改善したそうです。
ただし、調査した赤ちゃんの具体的な月齢や頭のゆがみレベルが分からないため、この調査結果をそのまま日本の赤ちゃんに当てはめることはできません。
どの方法が最適かは、斜頭症のレベルや赤ちゃんの月齢によって異なります。今の赤ちゃんにどの治療が適しているかは、一度医療機関で相談するのがよいでしょう。
Q:斜頭症でヘルメット以外の治療法をすすめるのはどんな赤ちゃんですか?
ゆがみが軽い場合は、ヘルメット以外の治療方法をすすめるケースもあります。
実はヘルメット治療が適用になるのは「中等度以上の変形性斜頭症」です。[6]
そのためゆがみが軽い場合は、ヘルメット以外の治療法を選ぶケースも珍しくありません。
まとめ
斜頭症をヘルメット以外で治療する場合は「理学療法」をおこないます。市販されているドーナツ枕は医学的な効果が証明されておらず、窒息の危険もあるためおすすめできません。
なお、治療をしなくても、赤ちゃんの成長にしたがって自然に斜頭症が改善する可能性はあります。しかし、ゆがみが大きい場合の自然治癒は難しいでしょう。
斜頭症の治療は「自由診療」のため、どのような治療を受けるかは説明を聞いた後にご両親が決められます。治療の有効性が高い期間は限られるため、赤ちゃんの頭のゆがみが気になる場合は、頭のゆがみを診察する医療機関で一度相談してみましょう。
「赤ちゃんの頭のかたち外来」は、東大阪市にある赤ちゃんのゆがみ治療の専門外来です。小児脳神経外科医が在籍し、ていねいな診察で適切な治療をサポートします。
ヘルメット治療を取り扱っておりますが、無理に治療をすすめることはありません。「治療を受けるか受けないか」も、検査結果の説明後ゆっくりご自宅で考え、後日のお返事でも大丈夫です。
3Dスキャンやカウンセリングのみの受診も受け付けております。気になることがあれば、公式LINEから気軽にお問い合わせください。
参考文献
[1]頭蓋縫合早期癒合症|日本形成外科学会
https://jsprs.or.jp/general/disease/umaretsuki/atama/sokiyugo.html
[2]病状の予防や治療のために幼児用頭整形枕を使用しないでください:|FDA の安全性に関するコミュニケーション
[3]睡眠中の赤ちゃんの死亡を減らしましょう|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000181942_00007.html
[4]0歳児の就寝時の窒息死に御注意ください!|消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/161024kouhyou_1.pdf
[5]頭蓋位置変形に対する保存療法とヘルメット療法の有効性|Pubmed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25415272
[6]ベビーバンド|添付文書
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/701708_30400BZX00090000_1_01_01